Manager - Direct Tax
インドは、世界的な主要投資拠点として台頭してきました。しかし、過去には外国企業との間で、遡及課税、移転価格課税、租税条約の解釈をめぐる訴訟が多く発生し、不透明な印象を与えてきた側面もあります。現在、インドは投資家の信頼回復に取り組んでおり、過去の著名な紛争事例からは多くの教訓が得られます。
今月は、「インドにおける外国企業:税務紛争と今後の展望」と題してお届けします。
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UJA Tax Team
2025年6月作成
インドは、大規模な消費市場、熟練した労働力、そして成長するデジタル経済を背景に、急速に世界有数の投資先としての地位を確立してきました。過去10年にわたり外国直接投資(FDI)の流入は継続的に増加しており、インド経済の将来性に対する信頼がうかがえます。
しかし、インドの複雑かつ時として予測困難な税制環境によって、こうした楽観的な見方はしばしば揺らいできました。特に、遡及課税、移転価格課税、租税条約の解釈をめぐる紛争は、投資家の信頼に長らく影を落としてきました。
インドの税務史において最も物議を醸した案件のひとつが、ボーダフォン事件です。2007年にボーダフォンが関連会社を通して、タックスヘイブンのケイマン諸島を経由させてインドの通信会社を買収したことが発端です。インド政府は、この取引は実質的にインド国内の資産の売買なので課税すべきと主張しますが、最高裁判所は、当時の法律のもとではそのようなオフショア取引により発生したキャピタルゲインはインドでは課税対象とならないとボーダフォンに有利な判決を2012年1月に下します。
その2か月後、インド政府は、インド資産に関連するオフショア取引に課税するために、税法を遡及的に改正しました。この法改正は、広範な批判を招き、投資家はインドにおける法的確実性の尊重に疑問を呈しました。
こうした経緯を経て、インド政府では様々な改革を行っています。
デジタル化と透明性の向上
租税条約の改定
事前確認(APA)および相互協議手続(MAP)
法的確実性が極めて重要
紛争解決メカニズムの重要性
政策の一貫性が不可欠
ステークホルダーとの対話
紛争解決制度の強化
税法の明確化
透明性と予見可能性の向上
国際基準との整合性
投資家とのコミュニケーション
インドはこれまで訴訟が多い税務環境として知られてきましたが、近年では、より透明性と安定性のある制度を目指して改革が進められています。
この変化の過程には、重要な示唆が含まれています。政策立案者にとっては、税制をつくるうえでの明確さや一貫性、そして企業などの関係者との対話の重要性があらためて浮き彫りになっています。一方、投資家にとっては、変化する法制度を正しく理解し、慎重に投資の構えを整えることの大切さが示されています。
インドが今後も世界経済を牽引する存在として成長していくためには、厳格な税務執行とあわせて、投資家の権利を尊重し、長期的な信頼関係を築ける制度との両立が求められています。